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大阪高等裁判所 平成8年(く)265号 決定 1996年12月02日

少年 K・N(昭和52.2.22生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用するが、論旨は、要するに、少年を医療少年院に送致する旨の保護処分をした原決定は、著しく不当であるので、その取消しを求めるというのである。

そこで、所論にかんがみ少年保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討すると、本件は、覚せい剤の使用及び所持(合計約4.78グラム)の事案であるが、少年は、平成8年7月26日、覚せい剤取締法違反(使用、所持)及び詐欺(カード詐欺)保護事件において、観護措置、試験観察を経て、保護観察処分を受けたばかりであるにもかかわらず、本件非行に及んでいること、少年は、右保護処分以前に購入して保管したものの失念してしまっていた覚せい剤を偶然発見し、これを処分することなく隠匿していたところ、以前同棲していた女性と喧嘩をしたことなどを理由に安易に覚せい剤を使用し、かつ、その残量を所持していたこと、さらに、密売人から頼まれ、少なくない量の覚せい剤を抵抗感なく預かり所持していたこと、覚せい剤の危険性や反社会性に対する認識が極めて乏しいこと、少年は自己本位の甘い物の見方をしがちであり、これまでの専門家や両親の指導はあまり内面化していないこと、高校卒業後の少年の稼働状況や生活態度は好ましくないこと、両親との関係は良好ではあるが、監護能力に多くを期待することはできないこと、などを考慮すると、少年に対しては覚せい剤に対する正しい知識と断固とした態度を持たせ、かつ、勤労の精神と基本的な生活習慣を確立させ、さらに、規範意識を深めさせるために、今回は少年を矯正施設に収容して矯正教育を施す必要がある。しかるに、少年は、C型肝炎に罹患しており医療措置が必要であるから、少年を医療少年院に送致した原決定は相当であり、かつ、少年の右問題状況にかんがみると、右医療措置終了後は更に中等少年院での矯正教育が必要であるとの処遇意見を付した原決定の処分が著しく不当であるとは言えない。論旨は理由がない。

なお、原決定は、その主文において、少年を医療少年院に送致する旨の決定と同時に、ポリ袋入り白色結晶フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩1袋(鑑定残量4.665グラム。大阪家庭裁判所堺支部平成8年押第268号符号2)を没取しているが、少年審判の理念及び非公開性等にかんがみると、少年審判手続においては刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法が準用されないから、第三者没取の手続をとることは許されず、したがって、第三者の所有物を没取することができないと解するのが相当であるところ、原決定は、右覚せい剤を少年の所有物ではなく、第三者からの預かり物(すなわち第三者の所有物)と認定しており、当審も右認定を正当と判断するものであるが、そうすると、原決定には没取できない第三者の所有物である右覚せい剤を没取したという違法がある。もっとも、右法令違反は保護処分の当否には関係がないので、決定には影響を及ぼさない。

よって、少年法33条1項、少年審判規則50条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 角谷三千夫 裁判官 古川博 鹿野伸二)

〔参考二〕処遇勧告書<省略>

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